yuichi0613's diary

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日本新聞業界の現状は?その4 ネットでも既存メディアがいまだ強い日本

今回でとりあえずの新聞業界の現状は終了。
努力不足を改めて思い知らされる。

要旨としては、インターネットの普及や読者への重要性の認識は増えてはいるが、実際に2009年の総選挙で参照したサイトはほとんどがYahoo!などのニュース・ポータル・サイトであり、さらには既存メディアよりも多く参照された既存メディア以外の報道主体はいまだ目立って出てきていない、ということ。

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第4項 新しいメディア主体の不存在

インターネットは普及が進むが…

日本でのインターネットを巡る状況は、年を追うごとに変わってきている。
総務省『平成20年通信利用動向調査』によると、過去1年間にインターネットを利用したことのある人*1 は推計で9,091万人(前年比280万人増)、人口普及率は75.3%となった。
世帯の利用率*2 では平成20 年末においてインターネットを利用している世帯は91.1%である。ネットワーク上を移動するデジタルデータの量を表すトラフィック量もここ1年で約40%増加している*3

また、インターネット・メディアの情報提供の質については匿名掲示板『2ちゃんねる』のイメージなどもあり、不正確で質が悪いという印象が根強い。
2007年の日本新聞協会の調査*4 で主要5メディアについての様々な評価をまとめているが、インターネットは「情報量が多い」、「多種多様な情報を知ることができる」、「情報が速い」と良い評価もされる一方で、「情報が正確」、「情報内容が信頼できる」、「情報が整理されている」の項目についての評価は他のメディアと比べて一段と低い。
事実、様々な内容のウェブ・サイトがインターネットのなかにひしめいているのが現状だろう。

しかし、昨今は例えば第1節で触れた総選挙の場合のように限定的にではあるが、インターネット・メディアに対する国民のイメージは少しずつではあるが変わってきた。

間メディア社会研究会が前述の総選挙直後8月31日〜9月1日に実施した有権者の意識調査において、次に示す図のように今回の選挙の情報源として「非常に重要」あるいは「ある程度重要」と答えたひとの割合が多かった順として、インターネットがテレビ、新聞に次いで第3位となっており(図1を参照)、この3つが雑誌やラジオなどの他メディアを大きく引き離した。



図1 選挙の情報源としての重要度
(出典:遠藤薫、前掲、p.43)


これについて同会主査を務める遠藤薫は、「特にインターネットは、これまでの調査結果と比べても大きく伸びて6割近くに達している*5 」と、他メディアとの比較をしたときの有権者の意識の変化を指摘している。また、メディアとしての信頼度の面でも、世代全体では新聞、テレビには及ばないものの、20代回答者においてはインターネットが首位になっている(図2を参照)。




図 2 選挙の情報源としての各メディアの信頼度
(出典:遠藤薫、前掲、p.43)


このような動向から、遠藤は「従来のソーシャル・コミュニケーション空間(政治など社会全体にかかわる情報空間)は、新聞、テレビ、雑誌、ラジオなどマスコミュニケーションによって形成されてきたが、今日では、新聞、テレビ、インターネットで構成されるようになったと言っても過言ではないだろう*6 」としている。人々のなかで、情報提供の手段としてのインターネットの存在感がこれまで以上に大きくなっていることがわかる。


新しいメディア主体の不在


こうしたなか、アメリカで出現しているような既存メディアに匹敵するユーザー数を持つ新しいメディアは、日本ではいまのところ出てきていないのが現状だ。
ただ、アメリカのように調査会社がインターネットのサイトのユーザー数を出しているところが日本では少ないため、実際にどれくらいのユーザー数を各サイトが持っているかはわかりにくい状況ではある。


例えば、既存メディアの補完を目指して創刊されたジャーナリズムを目的とした『JanJan』や『オーマイ』といった市民メディアは、苦境が伝えられており、ブログ・メディアも一時期大きなページ・ビュー数を持つ「アルファ・ブロガー」というブログの書き手が話題になったが、アメリカの事例のように他社から引用されるようなスクープ報道を行ったブログはほとんどない。

現在、ニュース・サイトとして盛況なのは、ITやテクノロジー系に特化した『アイティ・メディア(ITmedia)』、『シーネット・ジャパン(CNET JAPAN)』、そして『ジェイ・キャスト(J-CAST)』など少数である。


アメリカでは『ハフィントン・ポスト』など成功した日本のニュース集約サイトも、神奈川新聞社が関わる『media jam』などがあるが、記事利用がアメリカより厳しいこともあり、報道各社と記事配信で契約を交わしている『Yahoo!ニュース』のひとり勝ちの感がある。
政治サイトとしては、やはり『Yahoo!』内にある『Yahoo!みんなの政治』や、『JanJan』の日本インターネット新聞社が運営する『ザ・選挙』があり、どちらもデータベースを中心とし、既存メディアが報じない観点の情報を提供しているのだが、社会に対して大きな影響力を持っているとは言えない。

2009年の総選挙に関連して、インターネットのユーザーが選挙の情報をどの政治関連サイトで得たのかを示したのが、図 17である。

図 17 人びとはどのサイトで選挙関連情報を得たか
(出典:遠藤薫、前掲、p.48)

これを見ると、「Yahoo!やinfoseekなどのインターネット・プロバイダーのニュースサイト」が群を抜いて票を集めており、7割以上を占める。
その次に、「政党」、「議員」と続き、新聞社サイトが約2割の人が見たと回答している。
その後、『2ちゃんねる』などの掲示板や『Yahoo!みんなの政治』、テレビ局のサイトなどが続くが、全体の割合で言うと10%程度であり、さらにその後に並ぶ多くのインターネットのサービスは数%にも満たないものばかりである。


上記のように情報源としてのインターネットの重要性は高まっているにも関わらず、実際にユーザーが総選挙の際に参考にしたサイトは、ほとんどの人が「Yahoo!やinfoseekなどのインターネット・プロバイダーのニュースサイト」であり、既存の新聞社のサイトでも20%程度しかない現状である。
その他の報道主体の影響力や認知度の低さは、一般的にはほとんど問題にならない程度のものだろう。



※これまでの記事

アメリカ新聞業界の危機
その1 発行部数、広告費の推移
その2 経営危機への対応
その3 サイト無料化と有料化―『NYTimes』とマードック氏
その4 「ジャーナリズムの未来」は「新聞の未来」なのか?
その5 新しいジャーナリズムの出現


日本新聞業界の現状は?
その1 発行部数と広告費の推移
その2 社会の変化、新聞離れ
その3 経営悪化に対応する新聞社
その4 新しいメディア主体の不在

*1:インターネット利用者数(推計)は、6歳以上で、過去1年間に、インターネットを利用したことがある者を対象として行った本調査の結果からの推計値。インターネット接続機器については、パソコン、携帯電話・PHS、携帯情報端末、ゲーム機等あらゆるものを含み(当該機器を所有しているか否かは問わない。)、利用目的等についても、個人的な利用、仕事上の利用、学校での利用等あらゆるものを含む。

*2:家族の誰かが過去一年間にインターネットを利用したかどうか(利用機器、場所、目的を問わない)についての設問に対して「利用した」旨回答した世帯の割合。

*3:総務省「我が国のインターネットにおけるトラヒック総量の把握」(2009年8月6日)http://www.soumu.go.jp/main_content/000033592.pdf

*4:日本新聞協会「2007年全国メディア接触・評価調査」 http://www.pressnet.or.jp/adarc/data/rep/img/2008.pdf

*5:遠藤薫(2009)「ネットは09年衆院選をどう報じ、どう論じたか」『Journalism』、No.234(2009年11月号)、p.43。

*6:遠藤薫、前掲、p.44。