yuichi0613's diary

yuichi0613の雑記、写真、日々の記録。

本田靖春

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本田靖春という男


たまたま実家に帰ることがあり、久しぶりに自室でふとんを敷いて寝ようとした。
自分の部屋には約1千冊ほどの本があるので、一人寝の夜には誘惑が多い。
なかにはタイトルが一目でわからない形でつみあがっている本もあり、たまたまそのなかでふと手に取ったのが本書だ。

自分にとっての本田靖春とは、ある種の夢の理想形であり、20代前半から憧れ続けたジャーナリストである。
主観的ジャーナリズムとでも言うべき我の強さが特徴な記者で、「黄色い血キャンペーン」により売血に依存を脱して日本の献血制度を確立。かつて輝かしかった「読売新聞社会部」の最後の世代。
フリージャーナリストとしては、吉展ちゃん誘拐事件を題材にした「誘拐」、記者と彼らが集まるトリスバーのママさんを中心に描いた「警察回り」、立松記者と検察内部の権力闘争を描いた「不当逮捕」などが著名。
個人的には、絶筆となった自伝的連載「我、拗ね者として生涯を閉ず」に多大な影響を受けた。

作中、「ささやかに新聞記者だ」と言うセリフがあり心に響いた。けして奢らず、「魚の小骨」としてのジャーナリズムに誇りを持っているのだと、遠慮がちに語っているのが印象に残っている。


緻密な取材と筆力は実際に読んでいただければと思うが、初読から約10年。本田氏の特徴とは、その「立ち位置」の多様さにあるのだと思う。
生まれは朝鮮京城。かの地での裕福な暮らしと、植民地としての朝鮮。日本の敗戦と米軍、戦後民主主義。新聞記者として、数々の現場にその身ごと入り込んで取材を続けた。
その立ち位置の多様さが、文章を読むものに新たな気づきを与えているのだと思う。




ここで本田氏に関係して、自分語り。
記者を目指した1人のちっぽけな学生は、彼の命日にお墓に立ち寄って、数年の執着であった新聞記者の夢を諦めた。
夕暮れ時、文学者の墓の前にのぼる三筋の線香のけむりが、その場だけを周りの世界と隔絶していた。

けっきょくは自分が決めるしかない。
そして、決めたらやるしかない。


どろっとしたこだわりの塊を預けて、背中を押されるように霊園を後にしたことが懐かしく感じる。
本田靖春という男。
自分は諦めた男だけど、一度でいいからお会いしてお話をしたかった。