yuichi0613's diary

yuichi0613の雑記、写真、日々の記録。

日本新聞業界の現状は? その3 経営状態の悪化に対応する新聞社

日本の新聞業界の現状について。
他国と比べて発達した戸別配達制度、広告費に依存せず販売費に依存するビジネスモデルのおかげで、新聞産業にはアメリカほどの危機は訪れてはいないです。
しかし、社会の変化やインターネットの普及は着実に経営へ悪影響を及ぼしており、それに対する対応策として、従業員の削減、夕刊の廃止、販売網の合理化、そしてオンライン新聞の創刊などがなされています。
以下、そういう内容。


第3項 経営危機への対応


以上、述べてきたような背景から、日本の新聞社も経営の危機が顕現し始めてきている。危機への対応としてはアメリカと同様、人員削減や取材網の縮小のほか、日本の新聞産業を支える戸配制度網、販売店の合理化、印刷の委託、また、夕刊の廃止などが挙げられる。


経営基盤の弱い地方紙の廃刊、休刊


地方紙を巡る状況は厳しくなってきている。経営基盤の弱い地方紙のなかには、廃刊や休刊を選ぶ新聞も少なくない。ここ数年で起きたこうした出来事を表 4にまとめた。

表 4 廃刊または休刊した新聞紙名と時期

(出典:オンライン上の新聞記事を参考に筆者作成)


大手紙決算に赤字が

次に、大手紙が苦境に陥っている状況に触れる。
朝日新聞社が発表した2008年9月中間連結決算によると、純損益が103億円の赤字になり、中間決算の公表を始めた2000年以来、初めて純損失と営業損失を計上した*1
ほぼ同時期に毎日新聞社、産経新聞社も営業利益の赤字を計上している*2
日経新聞社も2009年1月〜6月期連結決算で営業損益が8億5,000万円となり、赤字となった*3
どの社も、メディア業界の広告不況のあおりをうけ、広告収入の大幅な落ち込みが影響している。こうした状況のなかで、経営の危機に対して新聞社はどのように対応しているのだろうか。


従業員数、記者数は微減が続く

産業全体の従業員数については、日本新聞協会経営業務部が毎年4月に調べた資料*4 によると、2009年に新聞と通信社の従業員総数は4万9,075人で、資料がある1999年の6万189人から減少傾向が続く。
この減少傾向について、『総合ジャーナリズム研究』のレポートでは、「1. 新聞・通信社の分社化(特に印刷、発想部門の子会社化、分社化)が進むことで、新聞社本体の従業員が減少、2. 経費削減を意図した早期退職制度の活用や、新規採用の抑制など、従業員総数の削減傾向が続いていること、3. 契約社員やパート・アルバイトなど不定期雇用枠の拡大*5 」などの要因を挙げている。
また、記者数についても同協会の同様の調査*6 によると、2009年は2万1,103人となり、こちらも資料がある1999年からの傾向を見ると、ピークの2003年の2万1,311人から2007年の1万9,124人まで減少傾向が続いたあとに2008年に2万1,093人と約10%増加し、そのまま横ばいで2009年の数字で維持している。
経営にかげりが見えているなか、記者数が増加したことは興味深い。
しかし、産経新聞では収益力の向上と経営基盤強化を図って2009年1月に希望退職者を約100名程度募り*7 、また役員報酬を減額する*8 など、大手紙の一部でも人員削減に踏み切る新聞が出てきている。
こうした経営への懸念は、様々なコストダウン策を不可避のものとしている。


夕刊の廃止の流れ

夕刊の廃止は、夕刊を読む習慣がなくなってきたことを背景に、ここ数年でいろいろな新聞の間で行われてきた。
特に産経は、夕刊を廃止し、ワンコイン価格で求められる新しい朝刊を発行することで、夕刊にかかる印刷、用紙代、輸送費を削減し、新朝刊部数を伸ばすことで夕刊廃止の減収分を補うことに成功した*9

表 6 夕刊を廃止した新聞紙名と時期

(出典:『総合ジャーナリズム研究』No.206、オンライン上の新聞記事を参考に筆者作成)


戸配率が90%を超える日本の新聞配達網は、日本の世界一の発行部数を支える制度である一方で、多大なコストをかけた制度である。そのため、販売網の合理化は多くの新聞社にとっての課題だ。
2007年10月の朝日、読売、日経各新聞の提携も、新聞のネット事業『あらたにす』での協力に加えて、販売事業での連携、具体的には、過疎地や販売部数の少ない地域において、朝日と読売の販売所が配達を分担すること、また、大地震やシステム障害などの不測の事態が起きたときに「紙面製作や印刷の代行、輸送支援をする相互協力*10 」といった内容で協定を結んでいる。
こうした、戸別配達網の合理化のための協力関係という側面がある。

印刷の委託なども一部では行われている。
読売新聞は2010年秋から、上越、中越地方向けの印刷を新潟日報に委託し、同時に新聞の共同輸送に向けても協議している*11
印刷を委託することで、コストダウンが見込めるという思惑がある。
その他、茨城新聞社十勝毎日新聞社にも地方紙の印刷委託を行っている。
産経新聞も、九州での印刷を現地の毎日新聞社の工場に委託し、九州に関しては西日本新聞社に委託している配達も、地域を山口県まで広めている*12
支局の規模縮小は記者数の削減によるリストラも意味する。その意味で、毎日新聞社が11月に発表した2010年4月予定の共同通信社との提携は、提携の柱として、「(1)各県を拠点とする共同加盟社の一部から地方版記事配信の協力を受ける*13 」を上げており、毎日新聞の地方ニュースを他の地方紙から提供してもらう狙いがあると見え、将来の地方拠点の削減を見据えた共同通信加盟ではないかと見る向きもある*14
朝日新聞も紀伊民報と業務提携を結び、2010年4月1日から記事の配信を受けることを決定したが、一方で、田辺市にある朝日新聞の紀南支局は休止をする。これは毎日の例と同様、支局の縮小によるコストダウンの狙いがある 。

他にも神戸新聞社にように、グループ会社であるデイリースポーツ社と合併し、業務共有などによる効率化と経営体質の改善を目指すところもある*15西日本新聞社は、山口県内での西日本新聞西日本スポーツの発行を2009年3月で休止し 、また、7月には沖縄の那覇支局を閉鎖している*16*17
また同年12月には、佐賀県において競合する佐賀新聞社に、2010年4月から1年間に輪転機の貸与を受けることを決めた*18

新聞紙の売価を変更するところもある。
下野新聞が2006年6月に2,803円から2,950円に上げ、山形新聞は購読料を2008年7月1日から値上げし、1か月3,007円から3,300円に変更した。
値上げの理由を、「製紙メーカーが用紙代を値上げしたことや、原油高で印刷コストが高騰したこと*19 」とJ-CASTニュースは解説している。
大手紙のなかでは、日経新聞が2010年の1月1日からコンビニや駅売り店などの店頭売り売価を朝刊140円から160円、夕刊50円から70円にそれぞれ20円ずつ値上げした*20
購読料は値上げせずに据え置いている。


日本でも「北日本新聞」がオンラインで有料課金

アメリカでもマードック氏を筆頭に議論がなされているオンラインの有料課金だが、日本の新聞にも始める新聞が現れた。
北日本新聞は、オンライン新聞『webun』を2010年1月1日から創刊し、2月から記事の閲覧を朝刊購読者か、県外や海外など配達区域外の読者へは月2,100円の購読料を払ってオンライン上で登録した会員に限る。
会員機能として、電子スクラップ機能を用意し、保存したいと思った記事を集積できる個人ページも作る。
サイトは「ニュース」、「スポーツ」、「くらし情報」のカテゴリで構成される。
また、会員制移行後も全国ニュースや外電、そして一部の生活情報は会員でなくても無料で読める。
また、非常時のニュースは、アクセス可能にしている。



図 16 北日本新聞が2010年1月から始めたオンライン新聞『webun』のトップページ
(出典:北日本新聞サイトより )


(※追記予定1.25 日経新聞は、2010年4月から電子新聞を創刊予定*21

日本経済新聞は今春、「日本経済新聞電子版」を創刊します。日経本紙の記事はもちろん、紙にない情報、機能も満載した全く新しい媒体です。最新ニュースや解説が24時間、パソコンでも携帯電話でも読めます。日経グループよりすぐりの記事や海外有力紙のコラムも提供。検索、保存なども簡単にでき、知りたい情報にいつでもどこでもアクセスできます。朝刊、夕刊に次ぐ「Web刊」の誕生です。


※これまでの記事

アメリカ新聞業界の危機
その1 発行部数、広告費の推移
その2 経営危機への対応
その3 サイト無料化と有料化―『NYTimes』とマードック氏
その4 「ジャーナリズムの未来」は「新聞の未来」なのか?
その5 新しいジャーナリズムの出現


日本新聞業界の現状は?
その1 発行部数と広告費の推移
その2 社会の変化、新聞離れ
その3 経営悪化に対応する新聞社
その4 新しいメディア主体の不在

*1:テレビ朝日株を売却し、投資有価証券評価損が44億円計上されたため、多額の純損失になっている。「朝日新聞が初の赤字転落 部数、広告減で9月中間」『47news』、http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008112101000896.html

*2:「毎日・産経が半期赤字転落 『新聞の危機』いよいよ表面化」『J-CASTニュース』、http://www.j-cast.com/2008/12/26033024.html

*3:日経新聞が赤字転落」『ITmedia』、http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0909/02/news017.html

*4:日本新聞協会「新聞・通信社従業員総数」、http://www.pressnet.or.jp/data/05koyososu.htm

*5:「『新聞』のいま、生業の現実2008」『総合ジャーナリズム研究』No.206、08秋号、p.9。

*6:日本新聞協会「新聞・通信社従業員数と記者数の推移」、http://www.pressnet.or.jp/data/05koyokisha.htm

*7:IR情報、http://sankei.jp/pdf/ir20090119b.pdf

*8:IR情報より。役員報酬月額の減額割合は、代表取締役:50%、専務取締役:30%、常務取締役:20%、取 締 役:15%。期間は平成21 年1 月から平成21 年6 月までの6 カ月間。 http://sankei.jp/pdf/ir20090119a.pdf

*9:河内、前掲、pp.154-162。

*10:「朝日・読売・日経が提携」『朝日新聞』朝刊p.1。

*11:「読売新聞、新潟日報へ印刷委託 来年秋から」『山陽新聞WEBNEWS』、http://svr.sanyo.oni.co.jp/news_k/news/d/2009071501000891/

*12:「産経新聞 九州で現地印刷 山口に配達拡大、紙面充実 毎日に委託」『MSN産経ニュース』、http://sankei.jp.msn.com/economy/business/081211/biz0812111504008-n1.htm

*13:「毎日新聞:共同通信・加盟社と包括提携」『毎日.jp』、http://mainichi.jp/photo/archive/news/2009/11/26/20091127k0000m040047000c.html

*14:「毎日新聞「共同通信加盟」に動く これでリストラ進むのか」『J-CASTニュース』、http://www.j-cast.com/2009/11/20054461.html

*15:神戸新聞社、デイリースポーツ社と合併へ 」『神戸新聞NEWS』、http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0002471988.shtml

*16:「山口県内での発行休止へ 西日本新聞社」『MSN産経ニュース』、http://sankei.jp.msn.com/life/trend/090310/trd0903101018005-n1.htm

*17:西日本新聞が那覇支局閉鎖へ」『MSN産経ニュース』、http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090713/biz0907131351002-n1.htm

*18:西日本新聞佐賀新聞が輪転機貸借で基本合意」『MSN産経ニュース』、http://sankei.jp.msn.com/economy/business/091210/biz0912101805028-n1.htm

*19:山形新聞14年半ぶり値上げ 大手新聞は追随するのか」『J-CASTニュース』、http://www.j-cast.com/2009/12/15056189.html

*20:日本経済新聞社からのお知らせ、http://www.nikkei.co.jp/topic/091215.html

*21:「Web刊誕生! 日本経済新聞 電子版 創刊へ」『NIKKEI NET』、http://www.nikkei.co.jp/topic/ds/